ジャズの醍醐味はアクシデントにあり

 デジタルアキュライザーのおかげで、オーディオ的に余計なことを考えずに済むようになったので、古いCDを引っ張り出して音楽の内容に没頭している。

 昨日は久しぶりに実況録音盤の『サラ・ヴォーン・アット・ミスター・ケリーズ』を聞いていた。「柳よ泣いておくれ」で、間奏の途中でサラが誤ってマイクを落とすか倒すかする大きな音が入っていて、「(録音中だというのに)私はこの曲を台無しにしちゃったわ。でも続けろと言うから歌うわね〜♩」と、咄嗟のアドリブで観客を沸かせる様子が収録されている。

 こういうアクシデントが起きた際に、機転を利かせたウルトラCで見事に乗り切るのがジャズの醍醐味なんだなあ。ジャズはアドリブ、ではなく状況に応じて瞬時に機転を利かせることなのだ。
 そう考えてみたら、誰かが間違ったり、とんだハプニングで演奏が台無しになりそうなところをうまく回避して名演奏になったジャズのレコードはたくさんある。

 例えばマイルス・デイヴィスのこれもライブ盤『マイ・ファニー・バレンタイン』。表題曲のイントロをピアノのハービー・ハンコックが間違える。そうじゃないだろ、「マイ・ファニー〜」は『クッキン』収録のそれのように、リリカルなイントロで始まるはずだった。
 アッ、間違えた!と思ったハービーは一旦弾きかけたイントロを終わらせる。そしたらどうだ、マイルス御大、構わず吹き始めてしまったではないか!?エッ?アレッ?始まっちゃったものはしょうがない、ついて行くメンバーたち。その後の盛り上がりが凄かった!この演奏がうまくいったので、これ以後「マイ・ファニー〜」はこのスタイルを踏襲することになる。

 サラ・ヴォーンも以後「柳よ泣いておくれ」で何か間違うのはおきまりのパターンになったそうだが、マイルスにしてもサラにしても、最初の(アクシデントが起きた)演奏に比べると予定調和でスリルに欠けて面白くない。
 植木等の「お呼びでない」も、ビートたけしの「ウマーイ」も、島崎俊郎の「アダモちゃん」も、考えて出たものじゃなく、咄嗟の機転から生まれた。最近では松本人志がバラエティ番組でゲストの発言をうまく拾って笑いに変えるあの手法はすごくジャズ的なものに思える。

 お笑いにしてもジャズにしても、あるいは散髪だってそうかもしれない。常に技を磨いてどんな球が来ても打ち返せる準備をしていることが極めて重要なのだ。


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