ジャズファンの美しい誤解

 チェット・ベイカーの伝記映画「ブルーに生まれついて」を観てショックを受けた人が少なからずいるようだ。自分の好きなアーティストは善良であってほしいと思うのがファンの心理だろうが、それをあっさり裏切るのがチェットという人なのであり、意志の弱いダメなジャンキー。だからこそ彼ほどジャズの似合う人はいないのである。
 隠微なスローテンポでのプレイで吹き込まれたリバーサイド盤『チェット』、実はあの遅すぎるテンポは”ジャンキービート”と呼ばれ、ジャンキー仲間のフィリー・ジョー・ジョーンズ、ビル・エヴァンスとキメており、しんどくてあれ以上速く演奏できなかったのである。

 ジャンキーといえばスタン・ゲッツ。彼は麻薬欲しさにピストル強盗までやったという前科があるので、いい人だというイメージはあまりない。だが、ヴァーヴの名盤『ゲッツ/ジルベルト』を聴けば、和やかな雰囲気の中でレコーディングされたに違いないと、大概の人は想像するだろう。
 しかし、穏やかに歌うジョアン・ジルベルトはゲッツに「グリンゴ!(グリーンベレー、ゴーホームの意)」と罵倒し、アストラッド・ジルベルトは英会話を武器にまんまとボーカルとして潜り込み、ゲッツはアストラッドにギャラを払うなと主張するという、ドロドロの現場からあの美しい音楽が生まれるのだからジャズというのは何が起こるかわからない(^^;


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