マイクにまつわるエトセトラ

ジャズの聴ける理容室 JimmyJazzさん(@jimmyjazz4343)が投稿した写真 -

 昔、大阪梅田にバーボンハウスという有名なライブハウスがあって、そこの音響の人が言ってた。
「うまいバンドが出るときは卓(ミキサー)を何もいじらなくていい。下手はバンドだとフェーダーを上げたり下げたり大忙しになる」
 要するに、うまいバンドというのは、お互いの音を聞きながらまとまりのあるサウンドを出す能力がある、ということ。たまたまPAを使っているが、音楽として考えてみたら、お客にいい音を届けるのはバンドとして当然備わってなくてはいけない能力だ。

 ところでマイクで音量を増幅する”禁じ手”を始めたのは誰だろうと考えてみたら、「クルーナー唱法」別名「ささやき唱法」と呼ばれる歌い方を流行らせたビング・クロスビーあたりからではないか。ささやくような小声で歌えば伴奏の楽器の音にかき消されてしまうが、マイクロフォンに口をぴったりつけてその声を増幅すれば、盛大な音の伴奏をバックにささやくように歌うことが可能になる。これにより、実際の生音とテクノロジーを使った音楽とに枝分かれを始めたのである。
 伴奏に負けないように声を張り上げなくてもいいとなれば、シンガーの個性も様々に発揮できる。クルーナー唱法はフランク・シナトラに継承され、ステージをハンドマイクを持って動き回るようになり、それを見たマイルス・デイヴィスはミュートトランペットをマイクにぴったりつけて、ささやくようなトランペット奏法を編み出した。

 また、マイルスのようにトランペットを吹きたいと思っていたチェット・ベイカーは、ラッパの代わりに自分のか細い声で歌う『チェット・ベイカー・シングス』を発表。そのレコードは海を渡り、南米ブラジルのリオデジャネイロ、ナラ・レオンのアパートにたむろする現地の若きミュージシャン達に聴かれる。そこにはアントニオ・カルロス・ジョビンやジョアン・ジルベルト、アストラッド・ジルベルトの姿もあった。つまり、ボサノヴァ独特の小声であのささやくような歌い方はチェット・ベイカーの影響だったのだ。後年チェットがブラジルを訪れた時、多くのミュージシャンから大歓迎を受け、なんのことやらわからず困惑したというからちょっと笑ってしまう。


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