ジョージ・アダムスの『ナイチンゲール』

 毎週木曜日の夜は「アナログナイト」ということで、アナログレコードをかけることにしている。昨夜はテナー吹きのお客様がいらしたので、ジョージ・アダムスの『ナイチンゲール』をかけてたら、昔のことを思い出した。

「Master、いま風邪ひいてません?」
 電話の声はいきなりわたしに変なことを訊く。ひいてないけど??
「いやあ、風邪がうつるとまずいんッス」
 そう言って予約を取ると、間もなく彼は散髪にやってきた。何度か来たことのある感じのいい青年だ。入院していて免疫力が弱ってるために、風邪をうつされると困るということだった。

 なんでもないかのようにさっと上げて見せてくれた左手の小指と薬指がなくなってるのを見て、わたしは初めて事の重大さを理解した。こんな時に、わたしは何ができるだろう?髪を切ること以外に、何か彼を勇気づける言葉の一つも見つからないなんて!
 そうだ、音楽を、何かいい音楽をかけてあげたらどうだろう。こういう時はマル・ウォルドロンの「レフト・アローン」か、いや、それではあまりにも絶望的すぎる。

 そうして取り出したのがこの『ナイチンゲール』、一曲目は「明日に架ける橋」。ひょっとしたらもう明日がないかもしれない彼に贈るメッセージ。サイモン&ガーファンクルのこの曲なら彼も聞いたことがあるだろう。二曲目はサッチモの「この素晴らしき世界」で、三曲目は”看護婦”をイメージさせる「バークレー・スクエアのナイチンゲール」というおまけ付き。感動的なA面の三曲を聴いて彼は帰って行った。まだ当店にCDプレーヤーがなかった25年以上も前の話である。彼の明日に橋は架かったのだろうか。


« ヘアカラーをドラマティックに | メイン | ポマードといえば »