トニーはどこへ行った?

 いま「マイルス・デイヴィス・リーダー ダウンビート誌に残された全記録」という本を読んでいる。マイルスのアルバムが出た当時のレビューが載っていて、急進的な音楽性を理解できない評論家にこき下ろされているのを見ると、これまでにない新しいものを評価するのは難しいのだなとなんとも感慨深い。ちなみに『オン・ザ・コーナー』なんて星2つしかついてなくて笑ってしまった。

 ライブの名盤『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』のレビューでは、「(トニー・)ウィリアムスは収録マイクの配置の悪さに泣かされている。スローなナンバーだとほとんど聴こえないし、速い曲でもいつも聞き慣れているあの驚異の若者の強烈さがここではおとなしいままだ。」と記されていて、まあこのハーヴェイ・サイダースとかいう書き手は一体どんな音の悪いオーディオで聞いているのかしらと呆れてしまった。突然パタッとドラムを叩くのを休止したかと思うと、また絶妙なタイミングで入ってくるのがトニーの持ち味じゃないか。聞こえるところではしっかり聞こえるし、聴こえないところではそもそも叩いてないのである。それでいて「いつも聞き慣れている驚異の若者の強烈さ」とは、ちゃんちゃら可笑しいわい。

 と、気になったのでトニーのドラムに集中しつつ久々に『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』の表題曲を聞いてみた。後半、ジョージ・コールマンのテナーソロが終わる頃にトニーの音が消えると、そのままハービー・ハンコックのピアノソロに突入、しばしベースのロン・カーターとのデュオが続いて御大マイルスが登場。エンディングに突入するからそろそろトニーも盛り上げに出てくるかと思ったら、あれっ?出てこないで終わっちゃったじゃないか。これは本当にマイクトラブルか何かで音を拾えなくなったか、それともトニーが途中でトイレに行ってしまったのか?確信が持てなくなったせいで、片っ端からトニーが叩いている「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」を聴くはめになってしまった(^^;

 ウエイン・ショーターが参加している演奏では、ちゃんと最後までトニーが叩いているのを確認できた。やはりこのリンカーンセンターのときだけのアクシデントだったのかと思ったが、その5ヶ月後の東京公演『マイルス・イン・トーキョー』の「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」では、サム・リヴァースのテナーソロのあと叩くのをやめたと思ったらそのまま最後までトニー登場せず。やはりあれは音楽的な演出だったのだ。ああよかった。


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