ナントカと梳鋏は使いよう

 よく、「たくさんすいてください」という注文がある。そうかと思えば、逆に「絶対にすき鋏は使わないで」という人もいる。
 お客が髪型の注文をするのは当然の権利だが、使用する道具まで指定されるのは、正直なところ、技術者にとってあまり気分のいいものではない。それでも、喧嘩してまで意地を通すほどのことでもないから、使うなと言うなら使わないで、別の方法を考える。

 すき鋏を拒絶する人は、おそらく過去にすき鋏を使って変な髪型にされたことがトラウマになっているのだろう。ガチャガチャと切ったら、適当に毛量が減ると思われるのだろうが、このすき鋏ほど、使う技術者のセンスが問われる道具はないのである。

 まず、論外なのから言うと、すき鋏で「頭に穴があく」ケース。素人がすき鋏で切ると、トウモロコシ畑でたき火をしたように、ぽっかりと穴があくことがある。すき鋏といえど、同じところを何度もすけば穴があくのは当然のこと。大きく穴があいた場合、修復はかなり困難である。

 次に、すき過ぎて失敗するケースとして、髪ぜんたいが「白っぽく見える」。すなわち、髪に艶がなく、痛んで貧相に見えるということである。
 これは、毛先一本一本があちこちに散らばって撥ねるせいで、光が乱反射して、実際に髪が痛んでなくても、痛んでいるように見えてしまう現象。

 すき鋏での失敗は、いずれの場合も、髪型のアウトライン(外郭線)が揃ってないことが原因なので、無造作に、ランダムにといいつつも、アウトラインは正確に揃えてやることが重要なのだ。これがつながれば、面白いことに、髪の色がぐっと沈んで、艶のある落ち着いた色へとみるみる変化する。「白髪染めをしようと思ってたが、(カットしてるうちに色が変わって)染めなくてもよくなった!」というケースもある。

 したがって、たくさんすけばすくほど素晴らしい髪型になるとか、すき鋏を使うと絶対に髪が痛むとか、そういう極端な思い込みはされないほうがいい。

 理美容の技術者のなかには、「すき鋏を使うのはごまかし仕事」と、断罪する人もいるけれど、わたしは決してそうは思わない。どんな道具もテクノロジーも、使い方しだいである。ほら、よく言うじゃないですか。「ナントカと梳鋏は使いよう」って。


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