いい日旅立ち
2023年10月にはシンガーソングライターの谷村新司が亡くなった。享年74歳。少年時代、同氏がパーソナリティを務める深夜ラジオ「MBSヤングタウン」を聴いて、ちっとも勉強しなかったわたしだったが、あんなふうに歳を取りたいと思える数少ないお手本の一人だった。
テレビの追悼番組で、氏が69歳で教習所に通って自動車免許を取得したと知った。確かに彼はクルマよりバスや列車の旅が似合う作風だったが(一旦取得したが’70年のアメリカツアー中に失効)、そういうことだったのか。
69ともなればそろそろ免許返納を考える歳なのに、それより10年若いわたしがやってできないはずはない!
実際、還暦を目の前に控え免許を取ると言ったら家族全員が呆れていたが、「谷村新司は69で免許を取った!」と言ってなんとかうまく丸め込んだ。
無謀な挑戦にビビりつつ、自らを鼓舞するために図書館で谷村新司の著書『本当の旅は二度目の旅』を借りて読んでいたら、最後のページに興味深いくだりがあった。
“——— ぼくは七〇、八〇になっても、おそらく自分なりの歩幅で走っているでしょう。そしてピンクのシャツを着ているジイさんになってるんじゃないかと思う。ピンクのシャツを着て、スニーカーを履いているジイさんかな、みたいな気がします。で、きれいなオープンカーのスポーツカーに乗って、真っ黒に日焼けして走っていたい。七〇くらいになっても女の子にチョッカイを出しているおじいさんでいたいのです。———”
ちなみにこの本は1993年10月発行、ということは谷村44歳ごろの著作なので、当然のこと書いたのは免許失効中である。
74歳で逝った谷村の、きれいなスポーツカーに乗り女の子にチョッカイを出す夢は叶ったのだろうか。
遅ればせながら、わたしもその夢継いでみたい。ピンクのシャツを買って、いい日旅立ち、なのである。
(つづく)