「男前1割増し」の秘密 その2

「男前1割増し」の秘密 その2

 フランス人サックス奏者のバルネ・ウィランが『ニューヨーク・ロマンス』録音のためヴァン・ゲルダー・スタジオを訪れた際、録音エンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダーとスタジオ所蔵のビンテージマイクを使わせろ、使わせないで一悶着あったとライナーノートに記されてあった。

 最後はバルネの意見が通ってノイマンのマイクを使用した収録となったが、職人気質の者にとって、使用する道具まで指定されるのはあまり気分の良いものではないだろう。

 理美容においても多いのが「すき鋏を使わないでください」というオーダー。多くの場合、過去にすき鋏を使って失敗されたトラウマがあって、「すき鋏イコール悪」のイメージが定着してしまったことに起因する。

 太古の昔から「ナントカとすき鋏は使いよう(?)」という諺にもあるように、すき鋏自体に問題があるのではなく技術者の使い方に問題があるのだ。

 一口にすき鋏と言っても、ザックリ一度にたくさん梳けるものから微妙な質感調整に使うものまで何種類もある。その中から髪質、毛量、痛み具合、デザイン、そのときのハサミのコンディションなどを考慮し、最適な使い方をしたいのである。

 だからといってクライアントの意向を無視するわけにもいかないので、「使うな」と言われれば使わないし、「使ってくれ」と言われたらなるべく使って差し上げたい。ただ一般論として、職人は信頼して、自由にさせてやるほうが良い仕事をするもの。

 『男前1割増しおまかせカット』はおまかせするから一割増しで男前になることをお忘れなく。

『ニューヨーク・ロマンス』を初めて聴いたのはもう20年以上前になる。あれから色々バルネのCDを聴いてみたが、『ニューヨーク・ロマンス』みたいな音で鳴ってるものはなかった。果たしてバルネはあの録音を気に入ってたのだろうか?

Jimmy Jazz